大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)32号 判決 1968年3月27日

控訴人(被告)

重機建設興業株式会社

被控訴人(原告)

鈴木健治

ほか四名

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴会社代表者は、主文同旨の判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および立証関係は、次に付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

第一、被控訴人ら代理人の陳述

一、本件事故を起した自動車を小型貨物自動車(愛四ゆ二九〇号)と訂正する。

二、仮りに、本件自動車が訴外重機建設株式会社の保有するものであり、訴外服部武が右訴外会社の雇用する自動車運転手であるとしても、控訴会社と右訴外会社とは事実上営業所を同一場所に置いて、同一内容の営業を営み、右訴外会社は控訴会社の下請業者として、その指示監督のもとに運営されており、また両会社の取締役、監査役等も相互に交流していたのであるから控訴会社は本件事故につき責任を負うべきである。

第二、控訴会社代表者の陳述

一、被控訴人らの当審における訂正の事実を認める。

二、控訴会社および訴外会社の営業目的が同一であり、控訴会社がその請負つた工事の一部を右訴外会社に下請させたことはあるが、右訴外会社が控訴会社の指示監督のもとに運営されていたことはなく、また控訴会社の依頼によつて右訴外会社の取締役、監査役が控訴会社の取締役、監査役に就任したのであつて相互に交流していたものでない。要するに右訴外会社は控訴会社とは全く別個の企業体であるから、本件事故は右訴外会社が責任をとるべきであつて控訴会社の全く関知しないところである。

第三、証拠〔略〕

理由

一、被控訴人ら主張の日時場所において、訴外服部武の運転する小型貨物自動車(愛四ゆ二九〇号)と訴外鈴木茂治の運転する軽自動車とが衝突し、右鈴木茂治が死亡したことについては、当事者間に争いがない。

二、そこで控訴会社が右事故につき責任を有するかどうかについて考える。

(一)  被控訴人らは、先づ、右小型貨物自動車は控訴会社が保有するものであり、右服部は控訴会社に雇用されていた自動車運転手であると主張するが、右主張にそう当審証人長谷川才一の証言ならびに原審および当審における被控訴人鈴木千恵子本人尋問の結果は、後掲各証拠に照らして措信できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。かえつて〔証拠略〕によると、右小型貨物自動車は訴外重機建設株式会社において保有、使用していたものであり、右服部は昭和三八年一〇月二〇日頃右訴外会社に自動車運転手として雇われ、本件事故当時も右訴外会社に勤務していたことが認められる。したがつて被控訴人らの右主張は採用できない。

(二)  次に被控訴人らの予備的主張について判断する。

控訴会社と右訴外会社とが同一内容の営業目的を有する会社であること、控訴会社がその請負にかかる工事の一部を右訴外会社に下請けさせたことは当事者間に争がなく、右争いのない事実と〔証拠略〕を総合すると、前記訴外会社は土木建築請負業、ブルドーザー土木請負業などを目的とする株式会社であること、控訴会社代表者安原弘道はもと右訴外会社に勤めていたが独立して土木建築請負業を行うため昭和三八年一二月二五日右訴外会社代表者訴外古田清彦らと控訴会社を設立し、右古田が控訴会社代表者となり、また右訴外会社監査役訴外古田俊治が控訴会社監査役となつたこと、右古田清彦は昭和三九年二月八日控訴会社代表者を辞任し、同日右安原が控訴会社代表者となつたこと、同日頃まで右両会社の事務所は同一場所にあつたこと、本件事故当時控訴会社は未だ自ら土木建築請負工事を行う人的物的設備を有するに至つていなかつたので、訴外日本機械土木から「猪子石」における土木工事を請負つた際、これを右所外会社に下請させたこと、右服部は右訴外会社に自動車運転手として雇われていたものであるが本件事故当日右古田の命令で右訴外会社が保有していた本件自動車を運転し、右「猪子石」の工事に関する連絡事務に従事中、本件事故を起したことが認められる。しかしながら、右訴外会社が控訴会社の指示監督のもとに運営されていたこと、また右請負工事に関し、控訴会社が右訴外会社や右服部を指揮監督していた事実、および控訴会社と右訴外会社が実質的に同一会社であると認めるに足りる証拠はない。そうすると、控訴会社は本件自動車の運行を支配していたものとはいえず、したがつて、控訴会社は自己のために本件自動車を運行の用に供した者に譲らないから、控訴会社は本件事故につき責任を負うべき筋合でない。被控訴人らの予備的主張も採用できない。

以上の次第が被控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。

よつて、右と結論を異にする原判決を取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九六条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井口源一郎 小沢博 三浦伊佐雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例